③ 合併症を考えたレシピ篇
帝京平成大学薬学部教授 金子希代子 先生(写真左)
株式会社フォーラル 管理栄養士 孰賀佳冬 先生(写真右)
2024年2月にて全35回で最終回を迎える「おすすめレシピ」。2021年6月に開始し、総レシピ数35種類になり、高尿酸血症.jpでの閲覧数は3.6万回(2023年12月のインタビュー時点)に及んでいます。そこで監修を務めていただいた金子希代子先生(帝京平成大学薬学部教授)と孰賀佳冬先生(株式会社フォーラル 管理栄養士)に、おすすめレシピ制作の舞台裏を振り返っていただいた特別編を全3回にわたってお送りします。今回は③合併症を考えたレシピ篇です。これまでの記事はこちらからご覧になれます。①季節のレシピ篇 ②プリン体を減らす&プリン体の理解を深めるレシピ篇
「合併症を考えたレシピ」の“隠し味”
金子先生
孰賀先生
夏場でも調理しやすいように電子レンジを使ったレシピにしています。また「トマト缶で10分そうめん」は本当においしいのでおすすめです。そうめんと聞くと塩分量が多いイメージがあります。塩分量を減らすために、とにかくたくさんのお湯で茹でることがポイントです。トマト缶はカットしてあるものを使うと手間がかかりませんし、夏野菜を追加しても良いと思います。つけ汁を工夫することで塩分量を減らすことができるレシピとなっています。
金子先生
続いて「尿路結石症の合併を考えたレシピ」です。「合併症を考えたレシピ」シリーズでアクセスが一番多かったのが「食べる野菜『だし』」でした。患者数で考えると高血圧のシリーズの方がアクセス数が多くなるのかと思いましたが、世の中に出ている尿路結石に関連するレシピが意外と少ないからかもしれませんね。尿路結石で注意しなくてはいけないのが、プリン体と、尿路結石の成分として最も多いシュウ酸カルシウムの元になるシュウ酸です。一方リスクを下げる食品成分はクエン酸とマグネシウムです。マグネシウムは腸管内でシュウ酸と結合してシュウ酸の吸収を抑えるほか、尿中でもシュウ酸と結合し、可溶性のシュウ酸マグネシウムを形成し、結晶形成を阻止することが報告されています。
孰賀先生
海藻のレシピはメインの料理になりづらいので苦労しました。「食べる野菜『だし』」の味付けは、めかぶのタレを使う簡単レシピです。オクラや納豆などのネバネバ食品とも相性抜群です。
金子先生
それ以外にシュウ酸の多い食材としてたけのことほうれん草の食べ方について知ってほしいと思い、とりあげてもらいました。
孰賀先生
たけのこを使ったレシピとして最初はチンジャオロースを考えたのですが、ありきたりなので、その具材を巻いてみたらと考えて「さんしょう香る肉巻き」としました。チンジャオロースと違って、一人につき二本までなど、一人分の量がわかりやすいのがポイントです。分量がわかりやすくなることで、食べ過ぎを抑えられます。逆にご高齢であまり食べない方には食べる量の目安として、一人分の量が見えることで、どちらのタイプの方にも分かりやすいかなと思っています。
金子先生
「ほうれん草のヘルシードリア」は、シュウ酸を多く含むほうれん草を、カルシウムを多く含む豆腐のクリームでドリアにし、シュウ酸の吸収を抑えるように工夫しています。ほうれん草はポパイが食べて元気いっぱいになるように栄養が豊富な食品です。カルシウムと一緒に摂ることで健康な食生活を送っていただければと思います。
「肥満または肥満症の合併を考えたレシピ」は、低エネルギー・低プリン体を考えて開発しています。
孰賀先生
副菜は「しらたき中華サラダ」です。春雨はヘルシーといわれていますが、エネルギー量でいうと実はそこまで低いわけではないため、しらたきを使い、中華風に仕上げています。野菜の高騰などがありますが、こんにゃく類は比較的安価に手に入ると思います。
先生方からのメッセージ
孰賀先生から
食事に関する情報が本当に多く、振り回されてしまう患者さんも多いと思います。まずは食事療法の専門家に話を聞いてみることが大切です。栄養相談をどこで受けられるのか知らない方もいらっしゃるかもしれませんが、最近では薬局にも管理栄養士がいるところが増えてきています。いつでもお気軽にご相談いただけたらと思います。高尿酸血症の患者さんは痛風発作だけではなく、食事や運動に関する悩みを抱えていたりするなど、疾患に関連する困りごとも一緒に考えていかなくてはいけないと思っています。薬物療法で血清尿酸値が下がったから自由に食事をしてよいわけでは決してなく、飲み薬や検査結果とあわせて、一人ひとりの生活に合わせた食事を含めた治療を大切にしていきたいと思っています。
金子先生から
ガイドラインでは血清尿酸値が7.0mg/dLを超えたら高尿酸血症と定義されているわけですが、痛風発作がなければ必ずしもすぐに薬物療法を開始するわけではありません。しかし合併症リスクを考えると血清尿酸値は6.0mg/dL以下に維持することが重要で、普段からの食事や運動がとても大切になってきます。食事に関していえば、尿酸値との関連性は研究されており、様々な食材のプリン体量も測定してきましたし、尿酸値を上昇させる食材や抑制する食材もわかっています。この「おすすめレシピ」では、高尿酸血症や痛風の患者さんに、どのような食事を摂ったら良いのかを知っていただくことを目標に制作してきました。レシピ制作のポイントは、“プリン体が少ない”、“エネルギーが少ない”、“塩分が少ない”、“食物繊維が多い”という4つの点です。専門的な内容は各レシピの「コメント」に記載していますので参考にしていただければと思います。簡単に手に入る食材で、簡単に作れるレシピを孰賀先生と開発したので、ぜひ患者さんの日々の料理の参考にご活用ください。
このシリーズは主食、主菜、副菜の1食分3つのレシピが出てくるような流れを意識しました。まずシリーズ最初は「高血圧症の合併を考えたレシピ」です。高尿酸血症は高血圧などの循環器疾患との関連が認められているので注意が必要です。高血圧は何といっても塩分がポイントです。あとは繰り返しになりますが、“プリン体量が少ない”、 “エネルギーが少ない”、 “食物繊維が多い”ことが大切ですが、メインの主菜ではお肉を使いたいと考えました。そこで「夏にぴったりピーマンの肉詰め」です。