特別企画
知られざる鳥の痛風・高尿酸血症
院長 進藤 祐介 先生
今回は特別企画として、鳥の痛風・高尿酸血症について進藤先生にお話を伺いました。人間との共通点や相違点など、いつもとは違った視点で尿酸“知”についてみていきましょう。
鳥も痛風・高尿酸血症になるのですね?
鳥類や爬虫類では、タンパク質の最終代謝産物を尿酸(人の場合は尿素)として排泄することから、腎機能が低下することで尿酸が高値になり高尿酸血症になります。つまり痛風発作の痛みに加え、既に腎臓病を罹患している場合が多いことから迅速な治療が必要となります。最も多く治療しているのはセキセイインコですが、他にもオカメインコやコザクラインコ、ボタンインコに多い病気です。
痛風を罹患したセキセイインコ
(痛みのために脚を挙げている)
(写真ご提供:進藤先生)
症状は人と同じでしょうか?
脚の関節に結節ができやすく、非常に強い痛みを伴います。しかし飼い主さんに鳥や爬虫類が痛風を発症することがまだあまり知られていないため、「食欲や元気がない」、「脚を挙げている」、「止まり木からよく落ちるようになった」、「あまり止まり木に掴みたがらない」、「鳥かごの下の方にいるようになった」など、何か普段と様子が違うことから心配して来院されるケースが多いです。止まり木から落ちたことで怪我を心配して相談にくる方もいらっしゃいますが、そもそも落ちること自体に問題があります。そういった場合、実は握力の低下が起きているのです。また、腎不全が進行している場合では突然死が起こることもあります。
検査や診断について教えていただけますか?
結節の白い部分に極細の注射針を差して細胞診を行います。顕微鏡下で尿酸結晶の析出を認めた場合、確定診断となります。なお、尿酸値や腎不全の進行の把握には血液検査を行います。セキセイインコなどは身体が小さく体重が35gくらいしかないため安全採血量を体重の約1%とみなした場合、0.3mL程度が採血量の限界です。鳥の獣医療では血液検査も工夫が必要で、検査機械も専用のものを使用しています。
飼い主さんに「痛風」であることを伝えると『俺と一緒だ!』とおっしゃられる方がいますが、人間でいうと透析が必要な状況と同等なくらいの腎不全になっていることがほとんどなので、死に直面している可能性があることをお伝えする場合もあります。
顕微鏡で見た針状の尿酸結晶
(写真ご提供:進藤先生)
どのような治療を行うのでしょうか?
食餌療法と薬物療法を中心に行います。鳥はほとんどの種類が常食の動物です。常に食べて、常に排泄して飛べるように身体の軽量化をはかっていますので「食べ貯め」はできません。二本脚で立っているべき鳥がお尻をついてしまうくらいの激痛ですので、まずは痛みのコントロールを行い食餌療法につなげます。なお、NSAIDsは腎障害の副作用があるため注意が必要なことから、現在は獣医療分野でもCOX-2選択的阻害薬を用いることが主流になってきています。ところが、動物種によって薬剤感受性は大きく異なるために、その選択は非常に悩ましいのです。
食餌療法としては、リンなどのタンパク質の摂取を制限します。現在では動物病院専用の腎疾患用療法食が販売されており、非常に効果が高いことが知られています。ペレットという人工飼料を用いるのですが、鳥に限らず動物は「美味しくないけれども治療のために我慢して食べよう」とはなかなか思ってくれませんので、食べてもらうための工夫が必要となることがあります。また、鳥の場合は運動療法は行わず安静を徹底します。さらに保温はとても重要です。温めただけで動けるようになったというケースもよくあります。
(写真ご提供:進藤先生)
痛風・高尿酸血症の治療で大切なことは?
「鳥は病気を隠す」といわれるくらいに、犬や猫以上に病気であることに家族が気づきにくい傾向があります。自然界では弱っているところを天敵にみせてしまうと獲物として狙われやすくなってしまうからです。また、鳥の病気の多くは病態の進行が非常に早いために、早期発見・早期治療が非常に重要です。「止まり木から落ちる」、「止まり木につかまりたがらない」などの仕草が見られたらなるべく早めの受診が推奨されます。市販品では食餌療法用ではない、通常のペレットもありますので、飼い主さんが知っておくと腎疾患用のペレットへの移行もスムーズなことがあります。何よりも生活改善(食餌療法)と薬物治療のダブルでコントロールしていくことが重要です。